今年4月26日にオープンし、連日多くの人が詰めかけて賑わいを見せている渋谷ヒカリエ。その８階はD&DEPARTMENT PROJECT（以下D&D）のナガオカケンメイさんが総合ディレクションを手がけたクリエイティブスペース「8/」で、アートギャラリーやワークスペース、ラウンジスペースといったユニークなフロア構成となっている。中でも目玉は、D&Dが直運営する「d47 MUSEUM」「d47 design travel store」「d47食堂」の３つだ。

　d47のdはデザイン、47は47都道府県を指す。「日本の個性は47通りある」という考えの下、展示や販売、飲食を通して、47都道府県「らしさ」を再発見できる場をつくった。「d47 MUSEUM」はまさに47都道府県をテーマにした、新しいスタイルの「物産美術館」である。館内に47の展示台を常設し、オリジナルキュレーションで企画展を運営していく。

　D&Dは、2008年より47都道府県の伝統工芸や地場産業に焦点を当てた展覧会「NIPPON VISION」を年に１度開催してきた。「d47 MUSEUM」はその延長線上にある、言わば常設展とも言える場所だ。ナガオカさんは常々「東京と地方」という紋切り型のもののとらえ方ではなく、どの都道府県に対しても平等な目でものをとらえることを実践してきた。自ら日本全国を駆け回り、多くの人やものとの出会いから、その土地に対する理解を深めてきた。

「d47 MUSEUM」では企画展「ニッポンデザイントラベルエキシビション"47都道府県のデザイン旅行"」を皮切りに、建築、工芸、食、酒、ファッション、農業、自然環境など、多様な視点でテーマを設定していく予定だ。展示品の選出も決して紋切り型ではなく、ナガオカさん独自の視点が感じられる。47の展示台をぐるりと回ると、まるで日本全国を俯瞰したような楽しさがともなう。

　一方「d47 design travel store」は、D&Dが発行するトラベル誌「d design travel」のナガオカさんを始めとする編集スタッフが、日本全国の取材先で出会ったものを紹介し、販売する店だ。「d47 MUSEUM」の企画展と連動した商品も多く扱う。店内には編集部のデスクが設けられ、編集スタッフが接客まで行うというユニークな運営をしている。一画には47都道府県ごとに分けられた観光情報ファイルを常設し、客が自由に閲覧できるようにした。国内旅行や出張へ出かける前に、ここで現地の情報収集をしておくこともできる。

「d47食堂」は47都道府県の食をテーマにした食堂で、メニューは常時10種類程の都道府県ごとの定食が中心。例えば静岡県の「富士朝日鶏の唐揚げ定食」や長崎県の「松浦港のアジフライ定食」、北海道の「釧路産ホッケの干物定食」など、バランスのいい和食定食が味わえるだけでなく、食材の産地や生産者を知るきっかけにもなる。

　１日300万人もの通勤・通学者が乗り降りし、国内外から多くの観光客が押し寄せる渋谷駅の中心で、47都道府県という切り口から日本を紹介し発信していく。この試みが今後どんな世代や層に、どのような影響を与えていくのか、非常に楽しみである。

（文・杉江あこ）